Nobody Knows the Trouble I've Seen|歌詞・和訳・意味を解説【黒人霊歌】

Nobody Knows the Trouble I've Seen
アフリカ系アメリカ人伝承歌

この作品について

『Nobody Knows the Trouble I've Seen』は、アフリカ系アメリカ人の伝承霊歌です。奴隷制と人種抑圧の歴史を背景に生まれた「sorrow song」の代表的な作品として知られ、個人の作詞者は確定できません。ここではR. Nathaniel Dettが1927年に記録した本文を扱います。

冒頭は「私の苦しみを誰も知らない」と言い切ります。ところが四行目にはすぐ “Glory, Hallelujah!” が来ます。苦しみが消えたから賛美へ移るのではなく、嘆きと賛美が最初から同じ歌の中にあることが、この霊歌を読む鍵です。

対訳

Oh, nobody knows de trouble I've seen,
Nobody knows but Jesus;
Nobody knows de trouble I've seen,
Glory, Hallelujah!
Sometimes I'm up, sometimes I'm down,
Oh, yes, Lord;
Sometimes I'm almost to de ground,
Oh, yes, Lord.
Although you see me goin' 'long so,
Oh, yes, Lord;
I have my trials here below,
Oh, yes, Lord.
One day when I was walkin' along,
Oh, yes, Lord;
De element opened, an' de Love came down,
Oh, yes, Lord;
I never shall forget dat day,
Oh, yes, Lord;
When Jesus washed my sins away,
Oh, yes, Lord.
おお、私が見てきた苦しみを、誰も知らない。
イエスのほかには、誰も知らない。
私が見てきた苦しみを、誰も知らない。
栄光あれ、ハレルヤ!
私はときに高みにいて、ときに落ち込む、
おお、そうです、主よ。
ときには、ほとんど地面へ倒れそうになる、
おお、そうです、主よ。
私がこんなふうに歩いてゆくのが見えても、
おお、そうです、主よ。
この地上では、私にも試練がある、
おお、そうです、主よ。
ある日、私が歩いていたとき、
おお、そうです、主よ。
天が開き、〈愛〉が降りてきた、
おお、そうです、主よ。
あの日を決して忘れはしない、
おお、そうです、主よ。
イエスが私の罪を洗い流してくださった日を、
おお、そうです、主よ。

Nobody knows but Jesus but は「しかし」でなく「~を除いて」。イエスだけは知る

Glory, Hallelujah 苦難が消えたという単純な転換ではなく、嘆きと並ぶ賛美

the element / the Love 天・神の愛という読解が有力だが、採用本文の特異な表現なので一義的に断定しない

解説

「誰も知らない」と「ハレルヤ」が同時に歌える理由

最初の三行は孤独を強くします。「誰も知らない」が繰り返され、その例外として “but Jesus” だけが置かれます。ここで重要なのは、苦しみそのものが否定されないことです。誰にも理解されない経験は残ったまま、ただ一人それを知る存在がいる。

その直後の “Glory, Hallelujah!” は、悲しみを忘れた明るい転調ではありません。苦難の告白と同じ呼吸の中に賛美が入っています。だからこの歌では、嘆きと信仰は時間順に交代するのではなく、同時に存在します。

続く “Sometimes I’m up, sometimes I’m down” は、境遇や心の浮沈を率直に語ります。さらに「私がこんなふうに歩いてゆくのが見えても、この地上では試練がある」と歌うことで、外から見える姿と内側の苦難の差が示されます。冒頭の「誰も知らない」は、ここで具体的な経験になります。

後半では天が開き、〈愛〉が降り、罪が洗われる救済の記憶へ進みます。採用本文の “the element” や “Love” には解釈上の幅がありますが、少なくとも歌が最後に置くのは「苦難などなかった」という否認ではなく、苦難を知る者との関係と救済の経験です。だから「誰も知らない」と「ハレルヤ」は矛盾せず、むしろ同じ歌を支える二つの声になっています。

原文全文

Oh, nobody knows de trouble I've seen,
Nobody knows but Jesus;
Nobody knows de trouble I've seen,
Glory, Hallelujah!
Sometimes I'm up, sometimes I'm down,
Oh, yes, Lord;
Sometimes I'm almost to de ground,
Oh, yes, Lord.
Although you see me goin' 'long so,
Oh, yes, Lord;
I have my trials here below,
Oh, yes, Lord.
One day when I was walkin' along,
Oh, yes, Lord;
De element opened, an' de Love came down,
Oh, yes, Lord;
I never shall forget dat day,
Oh, yes, Lord;
When Jesus washed my sins away,
Oh, yes, Lord.

原文出典

R. Nathaniel Dett, Religious Folk-Songs of the Negro (1927)

参考資料

Library of Congress — Spirituals
Hymnary — Nobody Knows the Trouble I've Seen

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